テキストの51〜53ページ
図4-1で示されるように、プロセスを切り替えるために、xv6はローレベルで2種類のコンテキストスイッチを行う。
ひとつは、プロセスのカーネルスレッドから現在のCPUのスケジューラのスレッドへの切り替え、もうひとつは、そのスケジューラのスレッドから他のプロセスのカーネルスレッドへの切り替えである。
xv6は、ユーザ空間のプロセスから他のプロセスへ直接切り替えることは決してしない。
このことは、ユーザカーネルの遷移(システムコールや割り込み)のやり方によって、スケジューラへの切り替え、新しいプロセスのカーネルスレッドへのコンテキストスイッチ、そしてトラップから戻るという事を引き起こす。
この節では、カーネルスレッドとスケジューラスレッドの間の切り替えの仕組みについて説明する。
図4−1 あるユーザプロセスから他のプロセスへの切り替え。この例では、xv6は一つのCPUで実行されている。(よってスケジューラのスレッドもひとつである)
xv6のプロセスはどれでも、第1章で見てきたように、それ自身のカーネルスタックとレジスタ一式を持つ。
それぞれのCPUは、どこかのプロセスのカーネルスレッドではなく、スケジューラを実行しているときに使うための個別のスケジューラスレッドを持つ。
あるスレッドから他のスレッドへの切り替えは、切り替え元もスレッドのCPUレジスタの保存と、切り替え先のスレッドの以前に保存されたレジスタの復元を伴う。
%espと%eipが保存や復元されるという事実は、CPUがスタックを切り替え、どのコードが実行されているかを切り替えるという事を意味する。
swtchはスレッドについては直接的には知らない。
コンテキストと呼ばれるレジスタ一式を保存し復元するだけである。
プロセスにCPUを手放させるときが来たとき、そのプロセスのカーネルスレッドは、自身のコンテキストを保存しスケジューラコンテキストに戻るためにswtchを呼ぶだろう。
それぞれのコンテキストは、struct context*として表現され、巻き込まれたカーネルスタック上に保存されたデータ構造を指すポインタである。
swtchは2つの引数を受け取る。
struct context **oldとstruct context *newである。
swtchは、現在のCPUレジスタの値をスタックにプッシュし、そのスタックポインタを*oldに保存する。
そしてswtchは、newから%espにコピーし、以前に保存されたレジスタを取り出し、そして戻る。
proc.hで定義されているcontext構造体
// Saved registers for kernel context switches. // Don't need to save all the segment registers (%cs, etc), // because they are constant across kernel contexts. // Don't need to save %eax, %ecx, %edx, because the // x86 convention is that the caller has saved them. // Contexts are stored at the bottom of the stack they // describe; the stack pointer is the address of the context. // The layout of the context matches the layout of the stack in swtch.S // at the "Switch stacks" comment. Switch doesn't save eip explicitly, // but it is on the stack and allocproc() manipulates it. struct context { uint edi; uint esi; uint ebx; uint ebp; uint eip; };
swtch.S
# Context switch # # void swtch(struct context **old, struct context *new); # # Save current register context in old # and then load register context from new. .globl swtch swtch: movl 4(%esp), %eax movl 8(%esp), %edx # Save old callee-save registers pushl %ebp pushl %ebx pushl %esi pushl %edi # Switch stacks movl %esp, (%eax) movl %edx, %esp # Load new callee-save registers popl %edi popl %esi popl %ebx popl %ebp ret
Instead of following the scheduler into swtch, let’s instead follow our user process back in.(ここ訳が分からない)
スケジューラからswtchへの流れを追う代わりに、ユーザープロセスが戻ってくる流れを追ってみよう。
それぞれの割り込みの最後にtrap関数がyield関数を呼ぶ可能性について、我々は第2章で見た。
同様にyield関数は、現在のコンテキストをproc->contextへ保存し、以前にcpu->schedulerに保存されたスケジューラのコンテキストへ切り替えるためのswtchを呼ぶsched関数、を呼ぶ。
proc.cのsched関数とyield関数
// Enter scheduler. Must hold only ptable.lock // and have changed proc->state. void sched(void) { int intena; if(!holding(&ptable.lock)) panic("sched ptable.lock"); if(cpu->ncli != 1) panic("sched locks"); if(proc->state == RUNNING) panic("sched running"); if(readeflags()&FL_IF) panic("sched interruptible"); intena = cpu->intena; swtch(&proc->context, cpu->scheduler); cpu->intena = intena; } // Give up the CPU for one scheduling round. void yield(void) { acquire(&ptable.lock); //DOC: yieldlock proc->state = RUNNABLE; sched(); release(&ptable.lock); }
swtchは、%eaxレジスタと%edxレジスタへ自身の引数を読み込む事から開始する。
これは必要な処理である。
スタックポインタを変更すると、もはや%esp経由で引数にアクセスすることが出来なくなるからである。
そしてswtchは、現在のスタック上にcontext構造体を作るため、レジスタの状態をプッシュする。
呼び出される側で保存されるレジスタだけ保存される必要がある。
x86の慣習では、それらは%ebp, %ebx, %esi, %ebp, %espである。
swtchは、最初の4つを直接プッシュする。(# Save old callee−save registersのところ)
間接的にstruct context*として*oldに書き込むために最後のものを保存する。(movl %esp, (%eax)のところ)
もうひとつ重要なレジスタがある。
プログラムカウンタ%eipは、swtchを呼び出したcall命令によって保存され、%ebpのちょうどすぐ上位のスタックにある。
古いコンテキストが保存されたら、swtchは新しいコンテキストを復元する準備をする。
新しいコンテキストのポインタをスタックポインタに移動する。(movl %edx, %espのところ)
新しいスタックは、swtchがちょうどいま処理したばかりの古いスタックと同じ形式であり、(前回のswtchの呼び出しではその新しいスタックは古いスタックだった)swtchは逆の手順で新しいコンテキストを復元する。
%edi, %esi, %ebx, %ebpをポップし、そして戻る。(# Load new callee−save registersのところ)
swtchはスタックポインタを変更するので、復元された値と戻り先の命令アドレスは、新しいコンテキストのものとなる。
我々の例では、schedはCPUごとのスケジューラコンテキストであるcpu->schedulerへ切り替えるためにswtchを呼んだ。
そのスケジューラコンテキストは、scheduler関数によるswtchの呼び出しによってすでに保存されたものである。
我々が追跡しているswtchから戻ったとき、schedではなくschedulerへ戻り、そしてスタックポインタは、initprocのカーネルスタックではなく、現在のCPUのスケジューラのスタックを指す状態になっている。
濃い節でした。
まとめると、
プロセスを切り替える際は、スケジューラに一旦切り替えてから、目的のプロセスに切り替える。
切り替え処理のコアはswtchである。
swtchでは、切り替え元のコンテキストを保存して、切り替え先のコンテキストを復元する。
ってところですかね。
yieldの説明のところでは訳がよく分からない文がありますが、ソースを見るとtrap関数の最後にタイマ割り込みだったらyieldを実行するというコードがあり、そこが時分割のキモとなる部分かと思います。
そこでスケジューラスレッドへ切り替わり、スケジューラはRUNNABLEなプロセスを探してそれに切り替える、という処理が行われるはずです。
最後のinitprocなんちゃらのところは、第1章のCode: Running a processで説明があった部分です。
swtchは起動中の特別な処理でも使われるのですが、単に今回は(というかこちらが通常の使い方だけど)その場合とは違うよということを言ってるんだと思います。
“Instead of following the scheduler into swtch, let’s instead follow our user process back in” のところですが、「スケジューラからswitchへの流れを追う代わりに、(私たちの)ユーザープロセスが戻ってくる流れを追ってみよう」というのはどうでしょうか・・・意味的にはオーケーかと。ただ、let’s insteadの部分が抜けますけど・・・これってtypoとかではないのかなぁ。はじめは、スケジューラーが独立にコンテキストを持っている意味が分からなかったのですが、考えてみればsmp対応しようと思ったらスケジューラーを複数スレッドで走らせないといけないので、こうならざるを得ないのですね。
ありがとうございます。
たしかに2つ目のinsteadがtypoだとすると意味が通りますね。
その訳本文に追記させていただきます。